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東京高等裁判所 昭和57年(う)88号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

〈前略〉

控訴趣意第一点について

所論は、本件のコルトポケット型三一口径・管打回転弾倉式けん銃(以下単に本件銃という)は、銃砲刀剣類所持等取締法(以下銃刀法または単に法と略称する)一四条所定の美術品もしくは骨とう品として価値のある「古式銃砲」として登録を認められる要件を備えるものであるところ、銃刀法三条の二において輸入を禁止されているのは、近代的武器としての性能を有する「けん銃・小銃・機関銃・または砲」であつて、右のように文化財となる古式銃は対象とはならないから、「けん銃輸入」の公訴事実については被告人を無罪とすべきであるのに、原判決がこれを有罪と認めたのは、法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのであり、右主張の根拠として、右三条の二新設当時の国会審議における政府側の見解ないし説明を援用するほか、本件銃がその型式・構造・製造年代等からして、文化庁の見解や、銃砲史上一般に承認されている「古式銃砲」の概念にあてはまること、及びその性能ないし威力が現代の銃砲に比して格段に劣るため、「近代的武器としての性能」の点でも右三条の二所定の「けん銃」には該当しないこと等を挙示している。

そこで検討すると、本件銃が銃刀法三条の二所定のけん銃に該当するか否かは、もつぱら同法が目的としている「人を殺傷するに足りる危険物としての銃砲」の規制、取締の見地から判断されるべき事柄であり、それは所論も認めるように「近代的武器としての性能」の有無によつて決せられるべきであつて、当該銃砲に美術的または骨とう的価値があることによつて左右される問題ではないと解すべきであるから、本件銃が銃刀法一四条一項所定の古式銃砲に該当するか否かにかかわりなく、まず前記武器性の有無を個別的・具体的に判断してこれが肯定される場合は、銃刀法三条の二の所期する輸入禁止の対象たる「けん銃等」に該当すると解するのが相当である。右の見地に立つて検討すると、原判決の挙示する関係各証拠によれば、原判決が本件銃は武器としての性能を高度に有しているとし、これが銃刀法三条の二所定のけん銃に該当するとした判断は、正当としてこれを是認することができる。

すなわち、本件銃は西歴一八六四年製造と認められる、コルトポケット型、口径0.31インチの、発火機構は「管打ち式」と呼ばれる銃身長15.2センチメートル、六連発の回転弾倉式けん銃であつて、形態、構造からしてもとより人の殺傷が可能な武器として作られたものであり、現在一般に用いられるけん銃との差異は、いわゆる薬莢を使用せず、弾薬の装填は銃身の後部にあたる回転弾倉の薬室前部から黒色火薬と球型鉛弾を順次挿入し、布ぎれ等の補助により密閉性を保ち、閉じられた薬室後部と小孔(火門)でつながる外部突起の火門台に雷管を帽子のようにかぶせ、発射時はこれを撃鉄で打撃することにより発火させ、火門を通じて発射薬に着火させる、管打ち式と呼ばれる発火機構と、銃腔にいわゆる旋条がなく、球型弾を使用する古風さにあると認められるが、現在のけん銃と比較した場合、弾薬の装填の簡便・迅速性において劣ることは否めないとしても、一旦弾薬を装填した以上は、現在のけん銃と同様に携帯に便利であり、片手による操作で確実に弾丸を発射できるうえ、速射性と連射性を有し、発射実験によつても近距離においては警察官の現在使用しているけん銃と比べて劣らない程度の威力があつたことが認められるから、これが発火機構の点では所論の古式銃砲の概念にあたるとしても、なお近代的武器としての性能は高度であつて銃刀法三条の二所定の「けん銃」の範疇からはずれるものとは認め難い。

所論の援用する「文化財となる古式銃は法三条の二の輸入禁止の対象とはならない」旨の、同条項新設当時の国会審議における政府側委員の説明は、その前後の部分も併せて通読すると、「近代的武器としての性能を有しない、文化財となる古式銃砲」についての立論であると解釈できるから、所論を支持するものとはいえない。また、所論は、昭和四〇年の法改正により、法一四条により登録の認められる銃として、従来の火なわ式銃のほか、火打ち石式・管打ち式等の銃砲が加えられたのは、これらは発火機構より見て今日では実用に供することは困難であり、仮りに実用に供されることがあるとしても、その威力は現代式銃砲に比して格段に劣るとされたからであるとし、前同様に当時の国会審議における政府側委員の説明等を援用して、これらの型式の古式銃はすべて実用性と殺傷の威力に乏しいとの理由で登録の対象とし、一般に所持を認めることとされたように主張しているが、右の実用性や殺傷威力の論議は、一般論としてのそれに過ぎないことは明らかであり、本件銃について個別的・具体的に検討した結果は、前記のとおり実用性もあり、殺傷の威力も高いと認められるのであるから、右所論も正鵠を得たものとはいえず、これまた採用し難い。

本件銃は、型式的に分類すれば「金属製薬莢を使用しない発火機構」による銃砲である点で、所論の古式銃砲の一つにあたると考えられるが、前記のように銃身後部に六連発用の回転弾倉を有し、発射後撃鉄を起すことによつて次弾の弾倉が正確に発射位置に移動され、連射が容易である点では現代の回転弾倉式けん銃(レボルバー)と遜色がなく、発火機構においても火なわ式や火打ち石式とは異なり、近代式銃砲と同様に雷管を撃鉄で打撃することにより、確実に発火させる方式(いわば雷管が弾倉の外にあるか、内にあるかだけの相違である)をとつているのであるから、「古式銃砲」にあたるとしても、その性能は近代式銃砲と比較し、決して格段に劣るものとは認められない。

よつて、原判決が本件銃を、銃刀法三条の二所定の「けん銃」にあたると認め、同条項を適用したのは正当であつて、なんら法令適用または解釈の誤りはないから、この点の論旨は理由がない。

控訴趣意第二点について

所論は、原判決が銃器輸入取締の実情について説示する部分につき、現実の銃砲の輸入の実情と、これに関する法的評価につき誤認があり、これがために法三条の二の輸入禁止の規定の解釈、適用上の誤りを犯すに至つている、というのである。

しかし、原判決が本件銃は法三条の二所定のけん銃に該当するとの判断を示した後、「たしかに銃器取締の実情は、如上の見地から輸入禁止物であると認められるけん銃についても、同法一四条の登録が得られるときは情を酌んでその輸入を黙許し、あえて同法三条の二違反の罪を問わずにすますというものであつたことは窺知するに難くないが、もとよりかような取締の実情は、犯罪の成否そのものとは別個の事柄である。」と述べている部分は、後記のとおり、昭和五〇年四月から銃砲刀剣類登録規則四条の改正がなされる以前に、外国製古式銃砲の大量輸入と法一四条による大量登録申請があつた当時の取締情勢について、傍論的に説示されたものと解すべきであるが、これを本件当時においても同様に考えられる旨を言外に表現していると解する余地があるとしても、「情を酌んでその輸入を黙許し」とか、「あえてその罪を問わずにすます」との表現は、法三条の二に違反した銃砲が一四条一項の要件を備える銃砲であつて、しかもその輸入にあたり正規の輸入申告及び登録申請の手続をふんだ場合には、その三条の二に違反する行為について可罰的違法性の稀薄化または違法性の意識の欠如の観点から、輸入罪の罪責を問うべきでない場合があることを、表現したものととるべきであつて、本件銃の輸入行為については、法一四条一項適用の観点からしての違法性阻却事由等が、結局は認め難いことを判示しているものと理解するのが相当である。

してみると、原判決に所論のような瑕瑾があるとは認められないから、右論旨は理由がない(なお、所論は、法一四条の登録に値する古式銃については、法三条の二の対象外であるとの前提をとり、原判決を論難しているが、右前提が正しくないことは前説示のとおりであるから、右所論も失当である。)。

控訴趣意第三点について

所論は、法一四条による古式銃砲の登録についての鑑定の基準である、現行の銃砲刀剣類登録規則四条一項は、昭和五〇年四月から、それまでにはなかつた「日本製銃砲にあつては概ね慶応三年以前に製造されたもの、外国製銃砲にあつては概ね同年以前に我が国に伝来したもの」という要件を付加しているが、この付加要件は、それ以前には登録の対象とされ、輸入を認められていた古式銃砲について厳しい制限を課する点で、憲法七三条六号但書に違反して法律の委任のない政令により罰則を設けるに等しい疑いや、国民の権利を制限することになる疑いがあり、右年度以前の製造または伝来を証明することを要求する点で、国民に新たな義務を課することになる疑いがあるので、右付加要件は法一四条一項の趣旨を逸脱し、無効であると解すべきであるから、右要件とかかわりなく本件銃は一八六四年製造の古式銃として、法一四条による登録の対象となり得るものであるのに、原判決がこれを顧慮せず法三条の二所定のけん銃輸入にあたると認定したのは、罪刑法定主義を規定した憲法上の要請に反するばかりか、法違反の誤りがある、というのである。

しかし、右登録規則は、法一四条の改正経過から見て、文化財保護法二条一項一号にいう文化財、すなわち「有形の文化的所産で、我が国にとつて歴史上または芸術上価値の高いもの」の保存、活用をはかるという見地の行政目的から、古式銃砲の登録審査に必要な鑑定の基準を定めた行政法規であると解されるが、右行政目的から見て「我が国にとつて」歴史上または芸術上、価値の高いもののみを登録の対象とすることは十分合理的であり、改正の経過についても、昭和四〇年改正の旧規則施行当時において、古式銃砲の輸入、登録の申請件数の異常増加や輸入古式銃砲を用いた不法事犯の多発をみるに至つたので、真に登録に値する銃砲のみを選定して登録を認めるという趣旨で、右鑑定基準の改正がなされるに至つたことが関係証拠により認められるから、前記行政目的からしてこの点も十分首肯し得ることであるし、また右登録規則や法一四条には、なんら罰則が設けられていないのであるから、所論のように法律の委任がないのに政令により罰則を付したことにはならないし、鑑定の基準を改めたこと自体は、国民の権利を制限したとか、新たに義務を課したとかいうことにもならないのは明白である。

そうすると、所論は独自の見解であつて、前記登録規則四条一項が法一四条一項の趣旨を逸脱し、無効であるとは認められないから、所論はその前提を欠くもので到底採用のかぎりではない。

なお、右登録規則四条一項によれば、本件銃は外国製銃砲であるから、慶応三年以前に日本に伝来したことが認められないかぎり、登録申請をしても許可されない取扱いであつたことは明らかであり、右伝来の点の証明資料として、明治五年に時の政府によつて武器改めが行われた際の「壬申刻印」が刻されていれば、右伝来の点を認める取扱いであつたことも関係証拠により認められるが、本件銃については右壬申刻印もなく、これに代り右伝来を立証する資料もないことが明白であるから、このままでは法一四条一項所定の美術品もしくは骨とう品たる古式銃砲として、登録の対象たり得ないものであつて、右一四条一項適用の問題となる余地はなかつたといわなければならない。

よつて原判決には所論のような瑕瑾はなく、論旨は理由がない。

控訴趣旨第四点について

所論は、仮りに被告人の本件銃の国内持込みが、直ちに輸入禁止罪に該当するとしても、その後通関するにあたり、あらかじめ古式銃として法一四条による登録申請をすれば、問題なく登録されることができたほど、資料的に価値のある銃であつたから、通関にあたつて登録申請をし、その登録申請を付して通関するならば、いわゆる立件をされなかつたことは明らかであるとし、被告人は現実には右登録申請をしなかつたのであるが、捜査当局は本件銃の発見後、被告人に対し右登録申請及び所定の輸入申告をなさしめることによつて、審査、鑑定を経て本件銃を法三条の二の対象外とすることができたはずであるのに、かような配慮をなすことなく強制捜査を行ない、原判決はその捜査の上で得られた証拠に基き判断をしている点で、訴訟手続に重大な法令違反がある、然らずとしても、被告人はもともと国内で登録証つきで入手していた本件銃を、修理のため国外へ持ち出し、修理後再び国内に持ち込んだのであり、このような場合には輸入申告は不要と考えていたのであつて、この程度では被告人の行為には、いまだ可罰的違法性がないものであつた(事実誤認ないし法的評価の誤りの主張と思われる)、というのである。

しかし、右前段の主張については、本件銃が外国製古式銃であつて、慶応三年以前に日本に伝来したことの証明資料がないものであるため、登録申請をしても許可されるはずのなかつたことは前説示のとおりであり、かつ被告人自身も、古美術品業者としてこれを十分承知していたこと、及びそのためもあつて本件銃についてはあえて輸入申告をせず、他の輸入申告物件の梱包内に混入させて通関しようとしたことが、関係証拠によつて明らかである。

そうすると右所論は、本件銃が古式銃として十分登録の対象たり得るという前提において誤つているうえ、右のような輸入銃器規制の事情を知つて、これを潜脱しようとした者にまで、事後的に通関手続等の追完を認めるべきであるという点で、到底これに賛同することができない主張である。

また、後段の主張についても、関係証拠を検討すると、被告人は本件銃を入手した当時、登録証であるとして付されていた登録証が、本件銃とは全く異なる別種の銃砲についてのものであることを、遅くとも本件銃を修理のため米国へ持ち出す段階では知つていて、本件銃には対応する登録証はないということを承知していたこと、その故もあつて、前記外国製古式銃砲の登録審査の厳しさを知つていた被告人は修理のため持ち出してまた持ち帰るとはいえ、携行物件として輸入申告をすることなく、前記のように密かに国内に持ち込もうとしたのであつて、古美術商としての立場と経験上、本件銃がけん銃としての形態と構造を有し、殺傷能力も有することは当然承知していたと認められるから、実質的に見ても違法性が稀薄であるとはいえず、また本人に違法性の意識も十分あつたと認められ、したがつて、被告人の輸入行為に、いわゆる可罰的違法性がないとは、到底いうことができない。そうすると、原判決が、「本件銃の輸入目的・輸入態様などに徴すると、本件銃を輸入する行為につき、違法性が存することは明白である。」と判断したのは正当であつて、論旨は理由がない。

控訴趣旨第五点について

所論は、原判決が関税法違反の公訴事実も有罪と認めた点において事実を誤認し、その結果同法一一一条の適用を誤つた違法がある、というのであり、その理由は要するに、税関検査は貨物の実体につき、申告品名に関係なく行われなければならず、仮りに税関職員が申告品名に欺罔されて、申告どおりの貨物と認定して許可を与えた場合には、貨物そのものにつき税関の許可を受けたものといわなければならないところ、本件では輸入申告書に本件銃の記載はなかつたが、貨物の実質またはその包装に特別の偽装を施していなかつたから、ことさら「隠匿した」ことにはならず、被告人が税関の検査が不十分のまま通関手続が終了することを期待していたとしても、無許可輸入罪には該当しない、というのである。

しかし、関係証拠によれば、被告人は本件通関当時、輸入申告をした日本刀三振と和式銃一丁を、長さ約一メートル、幅約二五センチメートル、厚さ約一〇センチメートルのダンボール箱に入れ、その一端に本件けん銃をウレタンフォームで包み、さらにダンボール片で包んでセロテープで縦横十文字にとめてから挿入し、さらに新聞紙若干を丸めて挿入し、それから前記日本刀や和式銃を挿入してダンボール箱を梱包し、本件銃の包装物が単なる緩衝物に過ぎないような外観を作つておいたこと、税関の保税上屋で千葉県教育委員会係員らによる登録審査のための点検と鑑定手続が行われた際、通関代理業者が本件銃の入つている端の方からダンボール箱をあけようとしたところ、立会つていた被告人は、「こつちからあけた方が取りやすいよ」と言つて逆の方からあけさせるようにし、被告人自身で刀三振、和式銃一丁を中から取り出して並べ、前記鑑定手続を受けたが、本件銃は取り出すことなく右手続を終り、右教育委員会係員から右提出物件につき登録証を交付されたうえ、これに続いて行われた税関職員による通関検査には、右登録証を添付して検査申請することにより、自動的に右検査をパスしたという経過であつたこと(その後、許可物件以外にもなにかがあるようだという、通関代理業者側の申し出によつて再点検が行われた結果、本件銃が発見された。)が認められるから、被告人は通関にあたり本件銃を、まさに隠匿したものと認めざるを得ない。

所論は、右被告人の具体的行為を無視して、独自の議論を展開するものであつて、通関手続が一旦終つた以上、本件銃にも他の申告物件と一緒に輸入許可が与えられたようにいうが、税関職員の目にふれないよう隠匿された物件についてまで税関の検査があつたとはいえず、これに対し許可が与えられるはずのないことは明白であるから、この点の所論も理由がない。原判決はこの点においても瑕瑾は認められないから、論旨は理由がない。

よつて、各論旨はすべて理由がないから、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(海老原震一 和田保 杉山英巳)

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